2009年10月20日
スペイン巡礼の旅34 峠まで
今日はセブレイロ峠までずっときつい登り道。
サンチャゴ・デ・コンポステーラまでの最後の難所となります。
そんなわけでほとんどの巡礼者が自分のザックを車で運んでもらうサービスを利用しています。
私も必要最小限の荷物をナップザックに入れて、大きなザックは運び屋さんの車に預けることにしました。
アルベルゲの玄関ポーチで順番に荷物をバンに乗せているところにルイシおばさんがやって来て言いました。
「スエルテったら、昨日の晩遅くまで外でおしゃべりしてたでしょ!あなたのケラケラ笑う声がうるさくて、なかなか眠れなかったのよ」
いつも割りとおとなしく静かにしていたので、昨夜の私の行動はルイシには突拍子もなく思われたようです。確かに、昨夜はちょっと遅くまでおしゃべりし過ぎたし、みんなに迷惑かけたかも。
「ルイシ、ごめんなさ~い」
ザックなしで歩くのは、この巡礼で初めてのことです。
9キロの荷物は毎日背負っていても決して慣れることはなく、やっぱり午後になるといつも投げ捨ててしまいたい衝動を覚えながら運び続けていました。
それが今日はないのです。
まるで背中に羽根が生えたよう!自然とスキップになります。
「荷物さえなければ、一日25キロや30キロ歩くのなんてなんでもないよね!今日は楽ちん、嬉しいな~楽しいな~」
そう言いながら、好きなところで写真を撮ったり、また一気に走って一番先頭を歩いたり、遠足を楽しむ小学生のようにキャッキャしながら歩きました。

マリアノとロヘリオ、ピエールと何人かの人達は今日もいつものようにしっかりザックを背負っていました。いつも先頭を歩いているマリアノはさすが健脚です。ひとりだったら、どんどん先まで誰よりも先に行ってしまいそうです。
彼は、巡礼を始めた頃は髭は生やしていませんでしたが、途中から剃るのをやめて、今ではまっ白な顎髭を蓄えていました。
その日、歩き始めて間もなく、前を歩いていたマリアノのリュックから、巡礼者の印として下げていた白い帆立貝の殻がチャリンと音を立てて落ちました。
私は駆け寄って拾おうとしましたが、その寸前でマリアノが自ら貝殻を拾い上げました。その時マリアノと目が合うと、素敵な笑顔を見せてウィンクをしました。そしてまた黙って歩き出しました。
グレーの髪に白い髭のおじさまの中に、一瞬少年のようなきらめきを見ました。
私は少し立ち止まりため息を付くと、またマリアノの後ろをついて行きました。
いよいよ急な登りが始まる手前の村でバルに寄ると、次々と顔見知りの巡礼者がやって来てビールやワインを注文して乾杯し、なんだかお祭りにでも行くようなノリになっています。
そしてここから峠の頂上までは本当にきつい、ひたすら登りの山道になるのです。
峠までの道は、大きな木が茂っていて、張り出した木の根っこに躓かないように気をつけながら登らなければなりませんでした。
はぁはぁ息を上げながらも、木陰の山道を気持ちよく進んで行けたのは、やっぱり荷物がなかったからかもしれません。途中、この地方独特の作りをしたケルト民族風の農家の前を通りました。
木陰で休憩をしていると、そこの村の、人のよさそうな農家のおじさんが、どこから来たのかと声をかけてきました。毎日のように行き過ぎる旅人達に、こうして話しかけるのは彼の日課のようなものなのでしょう。
やがて視界が開けてなだらかな登りになり、低い潅木やラベンダーなどのハーブが茂る道になると、ルイスと並んでおしゃべりしながら歩く余裕が出てきました。
「ここに咲いてる黄色い花は、お茶にすると腹痛の薬になるんだぜ、よく子供の頃うちのお袋に飲まされたよ」とルイス。
「へぇ、そうなの。この草はゆでて炒めて食べると美味しいよ、うちのおばあちゃんがよく作ってくれたよ」と私はワラビを指差して言いました。
「からかうなよ、こんなの食べれないだろう、お腹壊すよ」
「本当に美味しいんだよ!もしもお腹壊したらその黄色いハーブティー飲めばいいじゃない」
「それもそうだな」
そんなふうにルイスとしゃべりながらだらだら歩きをし、頂上の オ・セブレイロの村に到着しました。
いつものようにまずはアルベルゲに行ってベッドの確保です。
ところが、すでに定員オーバーで一つもベッドは空いていませんでした。
さて、どうしましょう?
-つづく-
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スペイン巡礼の旅1
前回の話を読む
スペイン巡礼の旅33
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サンチャゴ・デ・コンポステーラまでの最後の難所となります。
そんなわけでほとんどの巡礼者が自分のザックを車で運んでもらうサービスを利用しています。
私も必要最小限の荷物をナップザックに入れて、大きなザックは運び屋さんの車に預けることにしました。
アルベルゲの玄関ポーチで順番に荷物をバンに乗せているところにルイシおばさんがやって来て言いました。
「スエルテったら、昨日の晩遅くまで外でおしゃべりしてたでしょ!あなたのケラケラ笑う声がうるさくて、なかなか眠れなかったのよ」
いつも割りとおとなしく静かにしていたので、昨夜の私の行動はルイシには突拍子もなく思われたようです。確かに、昨夜はちょっと遅くまでおしゃべりし過ぎたし、みんなに迷惑かけたかも。
「ルイシ、ごめんなさ~い」
ザックなしで歩くのは、この巡礼で初めてのことです。
9キロの荷物は毎日背負っていても決して慣れることはなく、やっぱり午後になるといつも投げ捨ててしまいたい衝動を覚えながら運び続けていました。
それが今日はないのです。
まるで背中に羽根が生えたよう!自然とスキップになります。
「荷物さえなければ、一日25キロや30キロ歩くのなんてなんでもないよね!今日は楽ちん、嬉しいな~楽しいな~」
そう言いながら、好きなところで写真を撮ったり、また一気に走って一番先頭を歩いたり、遠足を楽しむ小学生のようにキャッキャしながら歩きました。

マリアノとロヘリオ、ピエールと何人かの人達は今日もいつものようにしっかりザックを背負っていました。いつも先頭を歩いているマリアノはさすが健脚です。ひとりだったら、どんどん先まで誰よりも先に行ってしまいそうです。
彼は、巡礼を始めた頃は髭は生やしていませんでしたが、途中から剃るのをやめて、今ではまっ白な顎髭を蓄えていました。
その日、歩き始めて間もなく、前を歩いていたマリアノのリュックから、巡礼者の印として下げていた白い帆立貝の殻がチャリンと音を立てて落ちました。
私は駆け寄って拾おうとしましたが、その寸前でマリアノが自ら貝殻を拾い上げました。その時マリアノと目が合うと、素敵な笑顔を見せてウィンクをしました。そしてまた黙って歩き出しました。
グレーの髪に白い髭のおじさまの中に、一瞬少年のようなきらめきを見ました。
私は少し立ち止まりため息を付くと、またマリアノの後ろをついて行きました。
いよいよ急な登りが始まる手前の村でバルに寄ると、次々と顔見知りの巡礼者がやって来てビールやワインを注文して乾杯し、なんだかお祭りにでも行くようなノリになっています。
そしてここから峠の頂上までは本当にきつい、ひたすら登りの山道になるのです。
峠までの道は、大きな木が茂っていて、張り出した木の根っこに躓かないように気をつけながら登らなければなりませんでした。
はぁはぁ息を上げながらも、木陰の山道を気持ちよく進んで行けたのは、やっぱり荷物がなかったからかもしれません。途中、この地方独特の作りをしたケルト民族風の農家の前を通りました。
木陰で休憩をしていると、そこの村の、人のよさそうな農家のおじさんが、どこから来たのかと声をかけてきました。毎日のように行き過ぎる旅人達に、こうして話しかけるのは彼の日課のようなものなのでしょう。
やがて視界が開けてなだらかな登りになり、低い潅木やラベンダーなどのハーブが茂る道になると、ルイスと並んでおしゃべりしながら歩く余裕が出てきました。
「ここに咲いてる黄色い花は、お茶にすると腹痛の薬になるんだぜ、よく子供の頃うちのお袋に飲まされたよ」とルイス。
「へぇ、そうなの。この草はゆでて炒めて食べると美味しいよ、うちのおばあちゃんがよく作ってくれたよ」と私はワラビを指差して言いました。
「からかうなよ、こんなの食べれないだろう、お腹壊すよ」
「本当に美味しいんだよ!もしもお腹壊したらその黄色いハーブティー飲めばいいじゃない」
「それもそうだな」
そんなふうにルイスとしゃべりながらだらだら歩きをし、頂上の オ・セブレイロの村に到着しました。
いつものようにまずはアルベルゲに行ってベッドの確保です。
ところが、すでに定員オーバーで一つもベッドは空いていませんでした。
さて、どうしましょう?
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スペイン巡礼の旅33 ありがたい習慣
スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス
スペイン巡礼の旅31 最もキツイ一日
スペイン巡礼の旅30 リタイアの危機
スペイン巡礼の旅29 初夏の吹雪の正体は…
スペイン巡礼の旅28 レオン観光
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Posted by スエルテ at 18:24│Comments(7)
│スペイン巡礼の旅
この記事へのコメント
アルベルゲが満員!?
え~と、日本の山小屋だったらとにかく詰められるだけ詰めて、それでもあふれるならテントを持っている人が外に出たり、バイトや小屋番の部屋を開放していただいたり・・・。
カミーノでも似たようなことをするのかな?
でも、基本ベッドだからなあ・・・。
正解は、毛布を敷いて床に寝た!ですね?
え~と、日本の山小屋だったらとにかく詰められるだけ詰めて、それでもあふれるならテントを持っている人が外に出たり、バイトや小屋番の部屋を開放していただいたり・・・。
カミーノでも似たようなことをするのかな?
でも、基本ベッドだからなあ・・・。
正解は、毛布を敷いて床に寝た!ですね?
Posted by hiro at 2009年10月21日 10:21
hiroさん
あちらは一人ベッド一台が基本なんですよね~
さて、どうしたかは次をご覧くださいね。
あちらは一人ベッド一台が基本なんですよね~
さて、どうしたかは次をご覧くださいね。
Posted by スエルテ
at 2009年10月22日 14:40

僕は16キロ背負ってました。
Posted by mazza at 2009年11月23日 16:12
mazzaさん
はじめまして。
人によって荷物の量はずいぶん違いますね。
私はいつでも身軽にしています。
はじめまして。
人によって荷物の量はずいぶん違いますね。
私はいつでも身軽にしています。
Posted by スエルテ
at 2009年11月26日 16:56

スペイン巡礼・・・いつかは実現したく思い、昨年こちらにたどりつきました。
そして夢中になり拝読しました。
アルベルゲが満室!!
どうされたのかしらと、続きが気になっています。
そして夢中になり拝読しました。
アルベルゲが満室!!
どうされたのかしらと、続きが気になっています。
Posted by hide at 2011年12月10日 19:37
hideさん
コメントありがとうございます。
この記事を書いてから、なんと2年も過ぎてしまいましたね!!
あの時は一週間後に更新しようと思っていたはずなのですが・・・
忙しさと、煩わしさの中で、いつか本当に忘れ去っていました。
もう一度、この続きを書き始めようと今思いはじめました。
もうちょっと待ってくださいね、頑張りますので。
コメントありがとうございます。
この記事を書いてから、なんと2年も過ぎてしまいましたね!!
あの時は一週間後に更新しようと思っていたはずなのですが・・・
忙しさと、煩わしさの中で、いつか本当に忘れ去っていました。
もう一度、この続きを書き始めようと今思いはじめました。
もうちょっと待ってくださいね、頑張りますので。
Posted by スエルテ at 2011年12月15日 23:57
書込みを読んで下さりありがとうございます。
とても嬉しかったです。
どうぞご無理のない範囲で、続きを書かれてくださいね。
今後、拝読出来るようなのでとても楽しみです。
フランスからの巡礼日記は、沢山書かれていますが、銀の道について書かれている日記は、それ程読む機会がないので( 私が見つけられないだけかもしれませんが。。。)貴重だと思います。
とても嬉しかったです。
どうぞご無理のない範囲で、続きを書かれてくださいね。
今後、拝読出来るようなのでとても楽しみです。
フランスからの巡礼日記は、沢山書かれていますが、銀の道について書かれている日記は、それ程読む機会がないので( 私が見つけられないだけかもしれませんが。。。)貴重だと思います。
Posted by hide at 2011年12月20日 19:14