2009年08月16日
スペイン巡礼の旅33 ありがたい習慣
さて、総勢9人でテラスのテーブルを囲み、グラスに注いだ赤ワインで乾杯をしようとした矢先、あろうことか、私は自分のワイングラスを倒して隣の席のピエールに全部ぶちまけてしまったのです!
私は立ち上がり、とにかくウエイターを呼んで、「ペルドーン!!」とピエールに誤りながら慌ててしまいました。
ところがそこにいたほかのみんなは平気な顔して、
「スエルテ、いいから座りなさい、ピエールおめでとう!」というのです。
ピエールの向こう側にいたルイスが、
「スエルテ、キミはいいことをしたんだよ。スペインではワインをこぼされるのはとても縁起のいい事なんだ。ピエールはラッキーなんだよ、スエルテにお礼を言わなきゃならないよ」
と笑顔で教えてくれました。
私はそれでも慌てて、受け取った布巾で真っ赤に染まってしまったピエールの白いTシャツをちょっとでも拭いてあげたいとオロオロしていました。
ピエールは私に
「グラシアス、スエルテ。本当に大丈夫だよ、Tシャツなんかまた洗えばいいんだから」
とちょっと戸惑ったような顔をしながらも言ってくれました。
グラスにもう一度ワインが注がれると、「サルー!!ピエールおめでとう」とみんなで盛大に乾杯しました。
ワインをこぼした加害者の私が、まるで幸運を運ぶ天使のようになってしまいました。
スペインのこのおもしろい縁起担ぎ、ドジな私には本当にありがたい習慣なのでした。
アルベルゲに戻ると、フロントで荷物運びの受付をしていました。ここから次の目的地セブレイロ峠までは、かなりきつい登りルートなので、重いザックは次のアルベルゲまで車で運んでくれるというわけです。
ルイシおばさん、ホアンをはじめ、ほとんどの巡礼者が荷物を預ける希望をしていました。でも、マリアノ、ピエール、ロヘリオは自力で背負って行くといいます。私はここで悩みました、
(荷物は軽いに越したことはない、でも担いで行けないほどへこたれてもいないし・・・どうしようかなぁ)
そこへルイスがやって来て、
「あんまり頭で考えるなよ。いいじゃない、一日くらい重荷から開放されたって、バチはあたらないよ」
と言って、さっさと申し込み用紙にサインをしていました。
そっか、そうだよね、一日くらい伸び伸び歩けるのを経験するのもいいかも。
そんな訳で、私もザックを預けることにしました。

夕方までの時間は、みんな思い思いに近くを散歩したり、昼寝したりのんびり過ごしていました。晩いお昼でしっかり食事をしていたので、夜は簡単にオレンジやスモモなどの果物をかじって済ませていました。
時間にすればもう8時を回っていましたが、まだアルベルゲ前の玄関ポーチには夕暮れのあたたかい日差しが残っていて、外の空気を吸ってリラックスしようとしている人々が談笑していました。私も入り口前の階段に出て座り、景色を眺めながら日記でも書こうかなと思っているところへ、ルイスがやって来て私の隣に座りました。
昼食の後、ルイシおばさんにつきあって、この町の博物館に行って来たと言っていました。
「へぇ、面白かった?」
「そうだな~、興味深かったけれど、途中で飽きたよ」
「でも、彼女は面白い人だよね、いろいろ知ってて教えてくれるでしょ」
そんな風に話していて、ルイスはゴムぞうりを履いた私の足に糸が結んであるのを見つけました。
「それは・・・何かのおまじないなの?」
ルイスは私の左足首をつかんで、ところどころに汚い糸の残っている黄色っぽい足の裏をまじまじと見ました。
「これはマメの治療の痕よ。消毒液を浸した糸を通して結んでおいたの、アルベルゲで一緒になったバルセロナのハンサムな男の子がやってくれたのよ」
やがてクックックと笑い出し、
「なんだこの足、このまま吊るしてチョリソーにでもすれば~?!ハッハッハー!!」
とおなかを抱えてゲラゲラ笑い出しました。
全く、私のみじめな足は塩漬けにした腸詰めにそっくりでした。
「ちょっとそんなに笑わないでよ!まぁもう汚くなって来たからそろそろ糸ははずさなきゃいけないんだけどさ」
そう言いながらも、私もおかしくて笑いながら糸が結んである足の裏を見ながら指を器用に動かして見せました。
「バルセロナのヤツのやることなんかインチキだろ。そんな治療の方法聞いたことないよ」
『マドリッド』出身のルイスは、ライバル関係にある『バルセロナ』に、やっぱり食いついてきました。これは想定内のことです。
「いいかいスエルテ、カタルーニャ(バルセロナのある県)のやつらは、自分達はスペイン人ではないと思ってるんだよ、お高くとまっててケチで冷たくて、めんどくせーんだよ」
あ~あ、本当に嫌ってるのね・・・
「でもさ、バルセロナの街は好きだけどね、観光地として素晴らしいと思うよ」
「ふ~ん、行ったことあるんだ」
「モチロン、何回も行ってるさ、それに・・・今オレが一緒に暮らしてるルームメイトはバルセロナ出身のやつなんだけどね、彼はカタラン(カタルーニャ出身者のこと)にしておくにはもったいないほどいい奴なんだ」
感情的には嫌いだけど、知り合えば結構仲良くなっちゃう、そんなものかもしれませんね。
日本でいったら、大阪と東京みたいなものかしら、いや歴史的な背景を考えるともっと根が深いでしょうね。
ルイスは現在バレンシアで、そのバルセロナ出身の友達とルームシェアしているそうです。
それからしばらくそこで、おしゃべりをしました。
足の指を使ってじゃんけんをしたり、簡単な漢字、「川」とか「木」「林」「森」を教えたり、
とりとめのないおしゃべりをして、ふざけてケラケラ笑い合っているうちに、いつの間にか日は暮れて、玄関前には誰もいなくなっていました。
そろそろ戻ろうと部屋に入ると、もうみんなシーンと寝静まっていました。
時間を見てびっくり、消灯時間の10時をとっくに過ぎて、間もなく12時になろうとしていました。
ヤバイ、早く寝なきゃ!
そーっと音を出さないように寝袋を出して寝床に納まりました。
明日はいよいよ峠越えです。
-つづく-
前回の話を読む
スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス
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私は立ち上がり、とにかくウエイターを呼んで、「ペルドーン!!」とピエールに誤りながら慌ててしまいました。
ところがそこにいたほかのみんなは平気な顔して、
「スエルテ、いいから座りなさい、ピエールおめでとう!」というのです。
ピエールの向こう側にいたルイスが、
「スエルテ、キミはいいことをしたんだよ。スペインではワインをこぼされるのはとても縁起のいい事なんだ。ピエールはラッキーなんだよ、スエルテにお礼を言わなきゃならないよ」
と笑顔で教えてくれました。
私はそれでも慌てて、受け取った布巾で真っ赤に染まってしまったピエールの白いTシャツをちょっとでも拭いてあげたいとオロオロしていました。
ピエールは私に
「グラシアス、スエルテ。本当に大丈夫だよ、Tシャツなんかまた洗えばいいんだから」
とちょっと戸惑ったような顔をしながらも言ってくれました。
グラスにもう一度ワインが注がれると、「サルー!!ピエールおめでとう」とみんなで盛大に乾杯しました。
ワインをこぼした加害者の私が、まるで幸運を運ぶ天使のようになってしまいました。
スペインのこのおもしろい縁起担ぎ、ドジな私には本当にありがたい習慣なのでした。
アルベルゲに戻ると、フロントで荷物運びの受付をしていました。ここから次の目的地セブレイロ峠までは、かなりきつい登りルートなので、重いザックは次のアルベルゲまで車で運んでくれるというわけです。
ルイシおばさん、ホアンをはじめ、ほとんどの巡礼者が荷物を預ける希望をしていました。でも、マリアノ、ピエール、ロヘリオは自力で背負って行くといいます。私はここで悩みました、
(荷物は軽いに越したことはない、でも担いで行けないほどへこたれてもいないし・・・どうしようかなぁ)
そこへルイスがやって来て、
「あんまり頭で考えるなよ。いいじゃない、一日くらい重荷から開放されたって、バチはあたらないよ」
と言って、さっさと申し込み用紙にサインをしていました。
そっか、そうだよね、一日くらい伸び伸び歩けるのを経験するのもいいかも。
そんな訳で、私もザックを預けることにしました。

夕方までの時間は、みんな思い思いに近くを散歩したり、昼寝したりのんびり過ごしていました。晩いお昼でしっかり食事をしていたので、夜は簡単にオレンジやスモモなどの果物をかじって済ませていました。
時間にすればもう8時を回っていましたが、まだアルベルゲ前の玄関ポーチには夕暮れのあたたかい日差しが残っていて、外の空気を吸ってリラックスしようとしている人々が談笑していました。私も入り口前の階段に出て座り、景色を眺めながら日記でも書こうかなと思っているところへ、ルイスがやって来て私の隣に座りました。
昼食の後、ルイシおばさんにつきあって、この町の博物館に行って来たと言っていました。
「へぇ、面白かった?」
「そうだな~、興味深かったけれど、途中で飽きたよ」
「でも、彼女は面白い人だよね、いろいろ知ってて教えてくれるでしょ」
そんな風に話していて、ルイスはゴムぞうりを履いた私の足に糸が結んであるのを見つけました。
「それは・・・何かのおまじないなの?」
ルイスは私の左足首をつかんで、ところどころに汚い糸の残っている黄色っぽい足の裏をまじまじと見ました。
「これはマメの治療の痕よ。消毒液を浸した糸を通して結んでおいたの、アルベルゲで一緒になったバルセロナのハンサムな男の子がやってくれたのよ」
やがてクックックと笑い出し、
「なんだこの足、このまま吊るしてチョリソーにでもすれば~?!ハッハッハー!!」
とおなかを抱えてゲラゲラ笑い出しました。
全く、私のみじめな足は塩漬けにした腸詰めにそっくりでした。
「ちょっとそんなに笑わないでよ!まぁもう汚くなって来たからそろそろ糸ははずさなきゃいけないんだけどさ」
そう言いながらも、私もおかしくて笑いながら糸が結んである足の裏を見ながら指を器用に動かして見せました。
「バルセロナのヤツのやることなんかインチキだろ。そんな治療の方法聞いたことないよ」
『マドリッド』出身のルイスは、ライバル関係にある『バルセロナ』に、やっぱり食いついてきました。これは想定内のことです。
「いいかいスエルテ、カタルーニャ(バルセロナのある県)のやつらは、自分達はスペイン人ではないと思ってるんだよ、お高くとまっててケチで冷たくて、めんどくせーんだよ」
あ~あ、本当に嫌ってるのね・・・
「でもさ、バルセロナの街は好きだけどね、観光地として素晴らしいと思うよ」
「ふ~ん、行ったことあるんだ」
「モチロン、何回も行ってるさ、それに・・・今オレが一緒に暮らしてるルームメイトはバルセロナ出身のやつなんだけどね、彼はカタラン(カタルーニャ出身者のこと)にしておくにはもったいないほどいい奴なんだ」
感情的には嫌いだけど、知り合えば結構仲良くなっちゃう、そんなものかもしれませんね。
日本でいったら、大阪と東京みたいなものかしら、いや歴史的な背景を考えるともっと根が深いでしょうね。
ルイスは現在バレンシアで、そのバルセロナ出身の友達とルームシェアしているそうです。
それからしばらくそこで、おしゃべりをしました。
足の指を使ってじゃんけんをしたり、簡単な漢字、「川」とか「木」「林」「森」を教えたり、
とりとめのないおしゃべりをして、ふざけてケラケラ笑い合っているうちに、いつの間にか日は暮れて、玄関前には誰もいなくなっていました。
そろそろ戻ろうと部屋に入ると、もうみんなシーンと寝静まっていました。
時間を見てびっくり、消灯時間の10時をとっくに過ぎて、間もなく12時になろうとしていました。
ヤバイ、早く寝なきゃ!
そーっと音を出さないように寝袋を出して寝床に納まりました。
明日はいよいよ峠越えです。
-つづく-
前回の話を読む
スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス
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スペイン巡礼の旅34 峠まで
スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス
スペイン巡礼の旅31 最もキツイ一日
スペイン巡礼の旅30 リタイアの危機
スペイン巡礼の旅29 初夏の吹雪の正体は…
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Posted by スエルテ at 20:15│Comments(2)
│スペイン巡礼の旅
この記事へのコメント
だんだんサンティアゴが近づいてきましたね。
バルセロナ人への偏見?は微笑ましいものがありますが、
昨年、仕事で初めて行ったバルセロナで現地の人が、「最近は、
カタルーニャ国として独立しそうなくらいの勢いです」と言って
おられました。標識なんかもカタルーニャ語でびっくり。
サッカーなんかも巨人VS阪神とは比較にならないほど対抗意識が強いんでしょうね^^;
バルセロナ人への偏見?は微笑ましいものがありますが、
昨年、仕事で初めて行ったバルセロナで現地の人が、「最近は、
カタルーニャ国として独立しそうなくらいの勢いです」と言って
おられました。標識なんかもカタルーニャ語でびっくり。
サッカーなんかも巨人VS阪神とは比較にならないほど対抗意識が強いんでしょうね^^;
Posted by hiro at 2009年08月16日 23:49
hiroさん
はい、もう少しでこの旅も終りますね。到着は待ち遠しいけど、旅が終るのは寂しいと思い始めた頃です。
バルセロナとマドリーのサッカー対戦はまったく代理戦争そのものですね。
外国人観光客は、うっかりバルセロナのサッカーTシャツを着てマドリッドをうろついたりしないように気をつけた方がいいですね。
はい、もう少しでこの旅も終りますね。到着は待ち遠しいけど、旅が終るのは寂しいと思い始めた頃です。
バルセロナとマドリーのサッカー対戦はまったく代理戦争そのものですね。
外国人観光客は、うっかりバルセロナのサッカーTシャツを着てマドリッドをうろついたりしないように気をつけた方がいいですね。
Posted by スエルテ at 2009年08月20日 12:46