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2009年10月20日

スペイン巡礼の旅34 峠まで

今日はセブレイロ峠までずっときつい登り道。
サンチャゴ・デ・コンポステーラまでの最後の難所となります。
そんなわけでほとんどの巡礼者が自分のザックを車で運んでもらうサービスを利用しています。
私も必要最小限の荷物をナップザックに入れて、大きなザックは運び屋さんの車に預けることにしました。

アルベルゲの玄関ポーチで順番に荷物をバンに乗せているところにルイシおばさんがやって来て言いました。

「スエルテったら、昨日の晩遅くまで外でおしゃべりしてたでしょ!あなたのケラケラ笑う声がうるさくて、なかなか眠れなかったのよ」

いつも割りとおとなしく静かにしていたので、昨夜の私の行動はルイシには突拍子もなく思われたようです。確かに、昨夜はちょっと遅くまでおしゃべりし過ぎたし、みんなに迷惑かけたかも。

「ルイシ、ごめんなさ~い」


ザックなしで歩くのは、この巡礼で初めてのことです。
9キロの荷物は毎日背負っていても決して慣れることはなく、やっぱり午後になるといつも投げ捨ててしまいたい衝動を覚えながら運び続けていました。

それが今日はないのです。
まるで背中に羽根が生えたよう!自然とスキップになります。

「荷物さえなければ、一日25キロや30キロ歩くのなんてなんでもないよね!今日は楽ちん、嬉しいな~楽しいな~」

そう言いながら、好きなところで写真を撮ったり、また一気に走って一番先頭を歩いたり、遠足を楽しむ小学生のようにキャッキャしながら歩きました。






マリアノとロヘリオ、ピエールと何人かの人達は今日もいつものようにしっかりザックを背負っていました。いつも先頭を歩いているマリアノはさすが健脚です。ひとりだったら、どんどん先まで誰よりも先に行ってしまいそうです。

彼は、巡礼を始めた頃は髭は生やしていませんでしたが、途中から剃るのをやめて、今ではまっ白な顎髭を蓄えていました。

その日、歩き始めて間もなく、前を歩いていたマリアノのリュックから、巡礼者の印として下げていた白い帆立貝の殻がチャリンと音を立てて落ちました。
私は駆け寄って拾おうとしましたが、その寸前でマリアノが自ら貝殻を拾い上げました。その時マリアノと目が合うと、素敵な笑顔を見せてウィンクをしました。そしてまた黙って歩き出しました。
グレーの髪に白い髭のおじさまの中に、一瞬少年のようなきらめきを見ました。
私は少し立ち止まりため息を付くと、またマリアノの後ろをついて行きました。

いよいよ急な登りが始まる手前の村でバルに寄ると、次々と顔見知りの巡礼者がやって来てビールやワインを注文して乾杯し、なんだかお祭りにでも行くようなノリになっています。
そしてここから峠の頂上までは本当にきつい、ひたすら登りの山道になるのです。
峠までの道は、大きな木が茂っていて、張り出した木の根っこに躓かないように気をつけながら登らなければなりませんでした。
はぁはぁ息を上げながらも、木陰の山道を気持ちよく進んで行けたのは、やっぱり荷物がなかったからかもしれません。途中、この地方独特の作りをしたケルト民族風の農家の前を通りました。
木陰で休憩をしていると、そこの村の、人のよさそうな農家のおじさんが、どこから来たのかと声をかけてきました。毎日のように行き過ぎる旅人達に、こうして話しかけるのは彼の日課のようなものなのでしょう。

やがて視界が開けてなだらかな登りになり、低い潅木やラベンダーなどのハーブが茂る道になると、ルイスと並んでおしゃべりしながら歩く余裕が出てきました。

「ここに咲いてる黄色い花は、お茶にすると腹痛の薬になるんだぜ、よく子供の頃うちのお袋に飲まされたよ」とルイス。

「へぇ、そうなの。この草はゆでて炒めて食べると美味しいよ、うちのおばあちゃんがよく作ってくれたよ」と私はワラビを指差して言いました。

「からかうなよ、こんなの食べれないだろう、お腹壊すよ」

「本当に美味しいんだよ!もしもお腹壊したらその黄色いハーブティー飲めばいいじゃない」

「それもそうだな」

そんなふうにルイスとしゃべりながらだらだら歩きをし、頂上の オ・セブレイロの村に到着しました。

いつものようにまずはアルベルゲに行ってベッドの確保です。
ところが、すでに定員オーバーで一つもベッドは空いていませんでした。

さて、どうしましょう?


-つづく-


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スペイン巡礼の旅1

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スペイン巡礼の旅33


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Posted by スエルテ at 18:24 Comments( 7 ) スペイン巡礼の旅

2009年08月16日

スペイン巡礼の旅33 ありがたい習慣

さて、総勢9人でテラスのテーブルを囲み、グラスに注いだ赤ワインで乾杯をしようとした矢先、あろうことか、私は自分のワイングラスを倒して隣の席のピエールに全部ぶちまけてしまったのです!
私は立ち上がり、とにかくウエイターを呼んで、「ペルドーン!!」とピエールに誤りながら慌ててしまいました。
ところがそこにいたほかのみんなは平気な顔して、

「スエルテ、いいから座りなさい、ピエールおめでとう!」というのです。

ピエールの向こう側にいたルイスが、

「スエルテ、キミはいいことをしたんだよ。スペインではワインをこぼされるのはとても縁起のいい事なんだ。ピエールはラッキーなんだよ、スエルテにお礼を言わなきゃならないよ」

と笑顔で教えてくれました。

私はそれでも慌てて、受け取った布巾で真っ赤に染まってしまったピエールの白いTシャツをちょっとでも拭いてあげたいとオロオロしていました。
ピエールは私に

「グラシアス、スエルテ。本当に大丈夫だよ、Tシャツなんかまた洗えばいいんだから」

とちょっと戸惑ったような顔をしながらも言ってくれました。
グラスにもう一度ワインが注がれると、「サルー!!ピエールおめでとう」とみんなで盛大に乾杯しました。
ワインをこぼした加害者の私が、まるで幸運を運ぶ天使のようになってしまいました。
スペインのこのおもしろい縁起担ぎ、ドジな私には本当にありがたい習慣なのでした。


アルベルゲに戻ると、フロントで荷物運びの受付をしていました。ここから次の目的地セブレイロ峠までは、かなりきつい登りルートなので、重いザックは次のアルベルゲまで車で運んでくれるというわけです。
ルイシおばさん、ホアンをはじめ、ほとんどの巡礼者が荷物を預ける希望をしていました。でも、マリアノ、ピエール、ロヘリオは自力で背負って行くといいます。私はここで悩みました、

(荷物は軽いに越したことはない、でも担いで行けないほどへこたれてもいないし・・・どうしようかなぁ)

そこへルイスがやって来て、
「あんまり頭で考えるなよ。いいじゃない、一日くらい重荷から開放されたって、バチはあたらないよ」
と言って、さっさと申し込み用紙にサインをしていました。
そっか、そうだよね、一日くらい伸び伸び歩けるのを経験するのもいいかも。
そんな訳で、私もザックを預けることにしました。





夕方までの時間は、みんな思い思いに近くを散歩したり、昼寝したりのんびり過ごしていました。晩いお昼でしっかり食事をしていたので、夜は簡単にオレンジやスモモなどの果物をかじって済ませていました。
時間にすればもう8時を回っていましたが、まだアルベルゲ前の玄関ポーチには夕暮れのあたたかい日差しが残っていて、外の空気を吸ってリラックスしようとしている人々が談笑していました。私も入り口前の階段に出て座り、景色を眺めながら日記でも書こうかなと思っているところへ、ルイスがやって来て私の隣に座りました。

昼食の後、ルイシおばさんにつきあって、この町の博物館に行って来たと言っていました。

「へぇ、面白かった?」

「そうだな~、興味深かったけれど、途中で飽きたよ」

「でも、彼女は面白い人だよね、いろいろ知ってて教えてくれるでしょ」

そんな風に話していて、ルイスはゴムぞうりを履いた私の足に糸が結んであるのを見つけました。

「それは・・・何かのおまじないなの?」
ルイスは私の左足首をつかんで、ところどころに汚い糸の残っている黄色っぽい足の裏をまじまじと見ました。
「これはマメの治療の痕よ。消毒液を浸した糸を通して結んでおいたの、アルベルゲで一緒になったバルセロナのハンサムな男の子がやってくれたのよ」

やがてクックックと笑い出し、
「なんだこの足、このまま吊るしてチョリソーにでもすれば~?!ハッハッハー!!」
とおなかを抱えてゲラゲラ笑い出しました。
全く、私のみじめな足は塩漬けにした腸詰めにそっくりでした。

「ちょっとそんなに笑わないでよ!まぁもう汚くなって来たからそろそろ糸ははずさなきゃいけないんだけどさ」
そう言いながらも、私もおかしくて笑いながら糸が結んである足の裏を見ながら指を器用に動かして見せました。

「バルセロナのヤツのやることなんかインチキだろ。そんな治療の方法聞いたことないよ」

『マドリッド』出身のルイスは、ライバル関係にある『バルセロナ』に、やっぱり食いついてきました。これは想定内のことです。

「いいかいスエルテ、カタルーニャ(バルセロナのある県)のやつらは、自分達はスペイン人ではないと思ってるんだよ、お高くとまっててケチで冷たくて、めんどくせーんだよ」

あ~あ、本当に嫌ってるのね・・・

「でもさ、バルセロナの街は好きだけどね、観光地として素晴らしいと思うよ」

「ふ~ん、行ったことあるんだ」

「モチロン、何回も行ってるさ、それに・・・今オレが一緒に暮らしてるルームメイトはバルセロナ出身のやつなんだけどね、彼はカタラン(カタルーニャ出身者のこと)にしておくにはもったいないほどいい奴なんだ」

感情的には嫌いだけど、知り合えば結構仲良くなっちゃう、そんなものかもしれませんね。
日本でいったら、大阪と東京みたいなものかしら、いや歴史的な背景を考えるともっと根が深いでしょうね。
ルイスは現在バレンシアで、そのバルセロナ出身の友達とルームシェアしているそうです。

それからしばらくそこで、おしゃべりをしました。
足の指を使ってじゃんけんをしたり、簡単な漢字、「川」とか「木」「林」「森」を教えたり、
とりとめのないおしゃべりをして、ふざけてケラケラ笑い合っているうちに、いつの間にか日は暮れて、玄関前には誰もいなくなっていました。

そろそろ戻ろうと部屋に入ると、もうみんなシーンと寝静まっていました。
時間を見てびっくり、消灯時間の10時をとっくに過ぎて、間もなく12時になろうとしていました。
ヤバイ、早く寝なきゃ!
そーっと音を出さないように寝袋を出して寝床に納まりました。
明日はいよいよ峠越えです。


-つづく-


前回の話を読む
スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス

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スペイン巡礼の旅1

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Posted by スエルテ at 20:15 Comments( 2 ) スペイン巡礼の旅

2009年07月19日

スペイン巡礼の旅32 ロヘリオとルイス

苦労してたどり着いたポンフェラーダでの夕食は、旧市街にある素敵なガーデンレストランでとりました。
やさしく涼しい風が出てきた庭で、マリアノ、ルイシ、ピエールと私のいつもの4人でメニューを見ていると、通りに一台のタクシーが止まり、我等がホアンが降り立ちました。
レオンを出てから別れて二日ぶりに会うホアンはすっかりリフレッシュした様子で、私達とまた合流できたことをとても喜んでいました。この日は昼間この町でゆっくり休んで、映画を見て時間を潰したと言っていました。
ホアンが戻って、また賑やかになりそうです。

アルベルゲに戻ると、マリアノと洗濯物を取り込みに行きました。
裏庭には、女物も男物も混ざって無造作に干された洗濯物が風に揺れています。夏のスペインでは、夕方干した洗濯物も、2時間もあれば気持ちよく乾いてしまいます。

「あと200kmと少しでサンティアゴに到着だよ、もうひとがんばりだな」

そうマリアノに言われて、これまでの日々のことを思いました。
25日前にひとりでスタートしたこの旅だけど、今では沢山の仲間が一緒。途中で分かれてしまった人も多いけれど、本当に出会えてよかったな。

その日はくたくたの体を労わって、早めに休みました。


翌朝、私は部屋で一番早く目を覚ましました。
一番といっても、ここは二段ベッドが二台ある四人部屋です。私の下の段にピエールが眠っています。
隣のベッドを見ると、下の段にロヘリオ、上の段にはルイスがぐっすり眠っていました。
なんだ、彼等が同じ部屋だったんだ…
きっと昨夜は消灯ギリギリまで飲んでいたのでしょう。
それにしても、二人のカッコったら!
二人そろって黒のブリーフ一丁で寝袋からおもいっきりはみ出して寝ていました。
そのセクシーな寝姿に思わずピューと口笛を吹きたくなりました。

さて、顔でも洗いに行こうと、二段ベッドの上から下に降りたかったのですが、このベッドにはちゃんとしたハシゴがなくて、うまいこと足を下ろさないと、ピエールの顔を踏んづけてしまいそうでした。
足を右から出すか左から出すか、タオルを首に巻いてしばらく躊躇していると、「Hey!」と誰かの声がしました。
見ると、ロヘリオが上半身起き上がって、眠そうな目でこちらを見ています。そして身振りで
(オレが降ろしてやろうか?)とオファーしてくれました。
私は思わず首を縦に振ってSi!(お願い!)と言ってしまいました。

黒のブリーフ姿のロヘリオは、両手を伸ばすとベッドに腰掛けた私を、小動物でも助けるようにヒョイっと下に降ろしてくれました。「グラシアス」と小声でお礼を言って、私は洗面所に行きました。

顔洗いながら、今の状況が可笑しくて、ひとりクックック!っと笑いをこらえることが出来ませんでした。
部屋に戻ると、ピエールは起きていましたが、ロヘリオはまた眠っていました。


この日は、まだ薄暗い中を、マリアノ、ホアン、ピエールと私の4人で出発しました。








町のはずれのバルで朝食を取り、またゆっくりペースで歩いていると、後からロヘリオとルイス兄弟がやって来ました。

「オラ!ブエノス・ディアス!朝はあんなにぐっすり眠っていたわりに早かったじゃない?」

「オレ達はいろいろ近道を知ってるのさ!それより今朝のことロヘリオに聞いたよ」

「そうそう、ロヘリオ、さっきはありがとうね!助かりました」

そう私が話している顔を見ながら、ルイスは我慢できないという様子でゲラゲラ笑い出しました。
ルイスは、パンツ一丁の兄が私をネズミでもつまむようにベッドから降ろす様子を想像しているのでしょう。

「ちょっと、そんなに笑わないでよ!」

といいながら、私も今朝の出来事を思い出すと、一気に笑いがこみ上げてきて、ルイスと並んで、しばらく大笑いしてしまいました。
こんなに笑ったの何年ぶりかしら?


午前中の休憩時間は、ロヘリオおすすめの、この地方の名物エンパナーダの特別美味しい店に立ち寄りました。ロヘリオが近づきになったしるしにといって、マリアノ、ホアン、ピエールと私に、おいしい白ワインをご馳走してくれました。
なんだか、また楽しい仲間が増えましたね。

前日の不調が嘘のように、この日の私は元気で、みんなとほとんど同じペースで歩けました。

ルイスとはさっき笑い転げあってから、なんだかいつも一緒に遊んでいる幼馴染みたいに打ち解けていました。
いつもスペイン語しか話さない人達と一緒にいるので、たまにルイスのように英語が堪能な人に会うと英語って分かりやすい言語だなーって感じて、かなり自由に意思の疎通が出来るように思えるのです。私の英語はかなり幼稚なんですけどね。





午後2時過ぎまでに24km歩いて、ヴィジャフランカ・デル・ビエルソという小ぢんまりした美しい町に到着しました。
3時ごろ、ちょうどここのアルベルゲで合流したルイシおばさん、ホアキン、マリア夫婦も交えて、町の食堂のテラス席で総勢9人で昼食会となりました。
ここで、ちょっとした事件が起きました。


ハイ、続きはまたこの次。
この日のことは長くなってしまうので、今日はここまでにします。

-つづく-



気付けばほぼ二ヶ月放置してしまった「スペイン巡礼日記」
次回はそれほど空けずに更新したいと思います!


前回の話
スペイン巡礼の旅31最もキツイ一日

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スペイン巡礼の旅1



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Posted by スエルテ at 19:02 Comments( 2 ) スペイン巡礼の旅

2009年05月22日

スペイン巡礼の旅31 最もキツイ一日

朝アルベルゲを出発する時、ホスピタレロの女将さんが私の様子を見て、
「気をつけてね、だいぶ疲れが溜まってるようだから」と声をかけてくれました。
確かにその頃の私は朝から体が重く、まるで鉛のかたまりのような動きをしていたと思います。

村を出ると見晴らしのよい高原に続いていて、ずーっと目の前に緩やかな山脈が広がっていました。
その稜線の上に、白く半透明に輝く丸いものがのっているのが見えました。
沈みゆく朝の満月です。
まるで、氷の玉をそっと山の上に転がしたようでした。
今日この日、この時でないと見られない一瞬の光景は、天からのプレゼントのように思えて、思わずため息が出ました。そしてなぜか涙が、つっと流れました。
間もなく、私達の背後から勢いよく昇って来る太陽から逃れるように、月は、静かに山の向こうに吸い込まれて行きました。

日が昇り始めると、たちまち夏のような日差しにさらされて、また厳しい一日がはじまりました。見晴らしはいいけれど、アップダウンの激しい山道を黙々と歩いて、有名な十字架の丘までたどり着きました。





ここで、何日か前の朝に、バルの前で一緒に写真を撮った、ルイスとロヘリオの二人組に再会しました。

「やあ君、元気?久しぶりだね!」
そんな風に、英語の出来るルイスの方が、気さくに声をかけてきました。
歩きながら、お互いにちょっとした自己紹介をし合いました。
ルイスとロヘリオは12歳年の離れた兄弟で、お兄ちゃんのロヘリオは今回、3回目のカミーノ巡礼なのだそうです。3週間の休暇を利用して、ブルゴスから最後まで、約500kmを歩くのが目標なのです。
弟のルイスはよくしゃべり、冗談も言うし、誰かれ構わず友達になってしまうひょうきん者。ロヘリオはかなり太めなおなかだけど、歩くスタミナは断然彼が上で、この巡礼の道のこともよく知っているから、すべてお任せのようです。ルイスはロヘリオ兄さんが大好きで、とても頼りにしていると言っていました。

街道沿いの村で昼の休憩を取り、賑わうバルのカウンター席で、エンパナーダというツナの入ったパイをいただきました。ルイスとロヘリオは、バルでゆっくりビールを飲みながら周りの人々と賑やかにやっていたのでここで別れて、マリアノ、ルイシ、ピエール、私の4人は一足早く出発しました。今日はここからがキツイらしいのです。
はじめのうちは4人並んでいましたが、だんだんマリアノが見えなくなり、ピエールが見えなくなり、ルイシおばさんも先に行ってしまいました。
スペインのこの地方の山は日本の山道とはまったく違って、ちょっと西部劇に出てくるような乾いた感じがします。大きな木はあまりなくて、とにかく日差しが容赦なく攻撃してきます。
野生のヤギでも出て来そうな岩のゴロゴロした山を下り終わるまで、誰にも会わず数時間を歩きました。
寂れた村をよろよろ歩いているところに、後からルイスとロヘリオが追いついて来て、「スエルテ、バルを求めて道を外しちゃダメだぞ」なんて、からかって行きました。
あまりにも私の歩みが遅かったので、いつの間にかルイスとロヘリオも見えなくなってしまいました。




 
途中立ち止まって飲んだ水筒の水は、お湯になっていました。
気付けばあたりはすっかり住宅街になっています。
ある家の前にいたおばさんが、しんどそうに歩く私を見かねて「ちょっとあなた、ここに座って休んでいきなさいよ」と、叱るような調子で声をかけてくれました。
ありがたかったけれど、それは断って、決して足を止めませんでした。今座ったらもう立てないと思ったからです。

それから道沿いの小綺麗なアルベルゲの前を通った時、女好きのペドロに会いました。女性を見ると必ずウインクしてくる色っぽいおじさんです。
サンダルに履き替えて、すっかりリラックスした格好です。私の横を歩きながら、「君も今夜はここのアルベルゲに泊まった方がいいよ、もうヘトヘトでしょう?ここは綺麗だし、設備もいいよ」
「ポンフェラーダはまだでしょ?私はどうしてもポンフェラーダまで行きたいの」
私は頑なに歩き続ける選択をしました。私の“仲間 Mis amigos”と 離れてしまうのは絶対にいやだったのです。

ひとり歩く姿は、亀と言うより炎天下のナメクジのようだったと思います。
この日は私にとって、カミーノの全行程の中で最も苦しい一日でした。
もう、三日くらい沈まない太陽の下を歩いているような錯覚を覚えました。

夕方ようやく、この日の目的地ポンフェラーダの町に入り、一軒のバルを見つけると、ほっとして少し泣きました。泣くことによって、緊張を解放したかったのかもしれません。
誰もお客のいないそのバルに寄って、魚の酢漬けと冷たいミルクコーヒーを飲み、またすぐに出発しました。

ポンフェラーダは大きな町でした。道行く人に「アルベルゲはどこですか?」と何度か尋ねて、長い橋を渡って、やっとそれらしき建物の前まで来ると、ピエールが入り口で待っていてくれました。
私に気づくと駆け寄って来て、リュックを持ってくれようとしましたが、もうすぐだから大丈夫だよと、そのままゆっくり並んで歩きました。
座って受付をしながら、出されたジュースを2杯一気飲みして、「ムイ・カンサダ~!」(めっちゃ疲れた~)と言っていると、誰かがポンと両肩に手を載せてきました。マリアノでした。
「スエルテ、よくがんばったね!シャワーを浴びて着替えたら、今夜はステキなレストランに食事に行こう、いいね」
ああ、やっぱりがんばってここまでやって来てよかった!とその時思いました。
本当に苦戦した一日でしたが、歩いた距離は28kmでそれほどでもなかったことが後でわかりました。一緒に出発したみんなは、私より3時間も早く到着していたそうです。

-つづく-


前回のお話↓
スペイン巡礼の旅30

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スペイン巡礼の旅1

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Posted by スエルテ at 19:48 Comments( 4 ) スペイン巡礼の旅

2009年03月30日

スペイン巡礼の旅30 リタイアの危機

オスピタル・デ・オルビゴでの朝、アルベルゲの玄関に降りていくと、マリアノとピエールがしっかりハグしあって、肩を叩き合っていました。
(どうしたの、今日は誰かの誕生日なのかな?)なんて思いながらそばに行くと、ピエールが神妙な顔をして言いました。
「スエルテ、いろいろありがとう、僕は今日ここで一旦やめるけど、君達は無事最後までがんばって!」

ピエールはここに来て足の調子が悪く、今朝一緒に出発は出来ないというのです。一度病院で診察を受けてから、この先続けるか決めるというのです。
ここ数日は我慢して歩いていたのかもしれません。
今ここでお別れだなんて!そんなのいやだって思ったけれど、無理に歩こうとは言えません。マリアノもルイシも同じ気持ちだったと思います。
4人でしばらく別れを惜しんでいましたが、やがて、手を振るピエールを何度も振り返りながらマリアノとルイシと私の3人はアルベルゲを後にしました。

日差しの強い乾いた道を歩きながら、ピエールと過ごしたここ一週間のことを考えました。
いつも微笑んでいたやさしいピエール。いてくれると、とてもみんなの気持ちがなごむムードメーカーでした。本当に寂しくなってしまったなぁと、つくづく残念に思いました。
3人それぞれ黙って、寂しい気持ちを引きずるように歩き続けました。

お昼に、通り沿いの街角にあるバルのテラス席で休憩しました。
いつものようにボカディージョとカフェ・コンレチェで腹ごしらえして、そろそろ出発しようかという頃、遠くに、こちらに向って歩いてくる巡礼者がいるのに気が付きました。
 
「あれ、ピエールじゃない!」 

「そうだよ!ピエールだ!」

わたし達3人は立ち上がって、ピエールが来るのを迎えました。
ピエールは、朝わたし達と別れてから少し休み、やっぱりもう少しがんばってみる決心をして、歩き出したのです。何とか私達に追いつこうと、休まずに歩いて来たようです。
ピエールの体調を気にかけながらも、またここで再会出来たことがとにかく嬉しくて、4人はまるで子供のようにはしゃぎました。

無理しないで、ゆっくり、一緒に最後まで行こうよ。きっと大丈夫だよ!

バルでピエールも小休止して、それからまた4人揃って出発しました。
まず目指すは、アストルガです。

アストルガは人口一万人以上のちょっとした観光地です。
教会前の広場は程よい賑わいで、初めて街に訪れた旅人をワクワクさせてくれるエネルギーを感じます。まず美しい大聖堂前に行ってみました。
この大聖堂は是非とも見学しようと、学識の高いルイシが私たちを誘って見学者入り口まで行きました。しかし、ちょうど午後2時を回ったところで、お昼の休憩時間に入っていました。
ルイシは係の人に、私達は巡礼者で先を急いでいることを伝え、外国人である私やピエールにとっては、このアストルガに来るチャンスはもう無いだろうから、ほんの少しでいいから見学させて欲しいと懇願していましたが、答えはノーで、4時に来てくださいの一点張りでした。そのうちルイシは逆ギレして、こんな風に融通が利かないからスペインは国際的にダメなのよ。まったく、この古臭い考え方何とかした方がいいわよ!みたいなことを言い始めました。さすが、戦う女です。






気持ちの収まらないルイシをなだめながら、私達はアストルガを後にして、また乾いた巡礼の道に戻って行きました。

午後4時ごろ、何もない田舎道の小さなバルで休憩にしました。みんなボカディージョを注文していましたが、私は持っていたパンをミルクコーヒーに浸して食べました。
「あとどのくらい歩くの?」とマリアノに聞くと、12㎞位だと言われ、がっくりした私はひとり外に出るとベンチに座って半べそをかきました。
「もうヤダ~!あと12km、3時間なんて歩きたくないよ!」

そう独り言云いながらくじけていると、少し離れた所でこの村の住人らしい少年がこっちを見ているのに気付きました。私はちょっと恥ずかしくなって、姿勢を正し、泣いても何にもならない、とにかく自分の足で歩くしかないんだと思いを切り替えて、もう一度バルに戻りました。

そこからの3時間は本当にきつかったです。かなり暑かったので、傘を差して歩いて行きました。
リタイヤした方がいいのはピエールより私なんじゃないかと思うほどでした。
途中自転車の巡礼者がわざわざ止まって、「大丈夫?もうちょっとのはずだからがんばって」と声をかけてくれました。そして今日の目的地、ラナバル・デル・カミーノの町の入り口で、マリアノ、ルイシ、ピエールの3人が私の到着を待っていてくれて、4人揃って町に入りました。
この日は36km歩いたようです。
アルベルゲに着いて足を止めると、骨の芯から震えるような疲労に包まれました。
今日のところは何とかたどり着けましたが、試練はまだまだ続くのでした。


前の話を読む
スペイン巡礼日記29

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スペイン巡礼の旅1

久々のスペイン巡礼旅日記(約二ヶ月ぶり!)最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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Posted by スエルテ at 18:11 Comments( 6 ) スペイン巡礼の旅