魅力的な都市、レオンの半日観光を楽しんだ翌朝、私達はまた、カミーノの巡礼者として身支度を整え、7時前にアルベルゲを出発しました。
(もっとゆっくりレオンに滞在出来たらいいだろうなぁ、いつかまた来られたら、あのパラドールに泊まりたいなぁ)
そんなことを考えながら、しばらく朝のラッシュの国道脇を黙々と歩きました。
今日はホアンの調子が悪そうです。私も決して快調ではなく、騒音の中とぼとぼ歩いていました。
それでも2時間も歩けば、周りの景色は徐々に建物も少なくなって、田舎道のようになって来ました。
あるお宅の前では、椅子の上にクッキーの缶とメッセージが置いてあり、そこには『巡礼者の皆さんどうぞ召し上がってください、buen camino!(よい巡礼を)』と書いてありました。
いつものように一番前を歩くマリアノは、途中で牛がいたり子猫がまとわりついてくると、私が来るのを待っていてくれて、「スエルテ、見てご覧、牛だよ」とか、「ネコちゃんだよ~」と教えてくれました。
マリアノは動物好きな優しい人なのです。
一回目の休憩は、国道沿いの大衆向けホテルのカフェで取りました。
ホアンはやけに饒舌におしゃべりしています。私はスペイン人同士で賑やかに話しているのをBGMにして、ただボーっとしていました。
出発する時、ホアンは、今日はこの近くのアルベルゲに泊まり、少し先まではバスで行くと言いました。昨日の午後は観光とはいえ、かなり歩き回ったので疲れが溜まっているのでしょう。
またすぐに会おうと言って、ホアンとは別れ、マリアノ、ルイシ、ピエールと私の4人は先を目指して進み続けました。
そのうち周囲は、ポプラの大木がきらきら揺れる素敵な田園風景になっていましたが、熱い日差しの下を歩くのは辛く、私はずっとのろのろ歩きでした。その頃ルイシとピエールはかなり前を歩いていましたが、マリアノは具合が悪そうな私を気遣って、時々「水はだいじょうぶ?」と言って待っていてくれました。そしてそこからしばらく並んで歩きました。
マリアノに「旅行は好きですか?」と簡単な質問をしてみました。
亡くなった奥さんと、新婚旅行でカナリア諸島に行ったことがあると言っていました。カナリアか…私の好きなサッカー選手、バレロンの出身地です。私も行ってみたいな…
それからは特に話すことも無く、1月から12月までスペイン語で言い合ったりしていましたが、私はこうしてマリアノと他愛のない会話をしながら歩くのがとても好きで、痛い足を引きずりながらもがんばって歩けるのでした。
ようやく、石造りの立派なローマン橋(ローマ時代から使われている石造りの橋)が見えて、私たちの今日の目的地オスピタル・デ・オルビゴに到着したことが判りました。
そこから町外れのアルベルゲに行きましたが、管理人が留守だったので、先に近くのレストランでまず昼食にしました。
今日のアルベルゲは保養所のような環境で、周りにはテニスコートやサッカーグランドがあり、ポプラのような大きな木々の林に囲まれていました。
その日の宿泊者はほとんどいないようで、アルベルゲはひっそりとしています。
ベッドで休息した後、私は誰もいないリビングルームに行って、足のすべての指に出来てしまったマメの治療を始めました。ホスピタレロのおばさんが貸してくれた救急箱を開いて、自分の持っている針をライターで焼いてマメに刺し、慎重に水を抜いて消毒するのです。
するとそこへ、25歳くらいの若くてハンサムなスペイン人の男の子がやって来て、
「うわ~、痛そうだね」なんて言いながら、私のマメ治療を見学し始めました。
(こんなかわいい子に見られたらやりにくいよ…)
なんて思っていたら、なんとこの彼が
「僕がやってあげるよ」と言うのです!
そばにいたホスピタレロのおばさんも、「その方がいいわよ」なんてうなずいています。
男の子は短パンをはいた自分の膝に「はい、ここに足を置いて!」なんて真面目に言っています。
私のきたないマメ足を膝にのせるなんて、そんな虐待に近いようなことをしていいのかしら?
と思いつつ、お言葉に甘えましたけど。
彼の名はマジー、バルセロナ出身で、現在、家族と犬を連れて巡礼中。
おばあちゃんも一緒だから、きつい所は車で移動しているそうです。
彼は私のマメのひとつひとつに消毒液を浸した糸を通して中の水を抜いてくれました。
私の足の裏は黄色くヨードチンキ色に染まりましたが、マジーのお陰で、短時間で治療を済ませることが出来ました。
夕方、あのローマン橋のある町の中心まで出かけると、町中に雪のような白い物が舞っているのが見られました。この町の周りに沢山あるポプラの木の種が、ぼたん雪のように綿状になって落ちているのです。夕方になればなるほど、それがまるで吹雪のように町中を覆って激しくなるのです。
初夏の吹雪…、それはとても神秘的で、私ははじめて雪を見た子供のようにはしゃいでしまいました。
私以上に喜んでいるのは、通りで見かけた野良犬でした。どんどん舞って来る綿毛に、いちいちカプカプ噛み付いている姿が可愛らしかったです。
-つづく-
前回の話を読む
スペイン巡礼の旅28
スペイン巡礼の旅をはじめから読む
スペイン巡礼の旅1
ワンクリックが励みになります(^◇^)
猫とクラフト雑貨のオンラインショップ♪
http://zakka-paraiso.com/
久々のスペイン巡礼の旅日記でした。次回は早めにアップしますね(^O^)/